密空間
信号が青に変わった瞬間、エンジンが唸りをあげる。
慣性の法則に従ってシートに押し付けられる感覚。
鼻腔を掠める芳香剤と微かな煙草の残り香。
そして、街灯の位置によって助手席の窓に現れては消える彼の横顔。
男と女が二人きりで座っているだけなのに、
どうしてこうも色っぽい空気が流れるんだろう。
「ねぇ」
「何ですか?」
「どこかイイトコに連れてってよ」
「ラグジュアリーなホテルですか?」
「バッカじゃないの」
あんたが行きたいなら、
大人しくここに座っていてあげるけど。