背中に手
「け、ん、ご、くーん。あんた本当にそれ言ってるの?」
「は?それって何をだよ……」
呆れた、こいつやっぱり人の話を聞いてないわ。何であたしこんな所にいるんだろって思ったら馬鹿馬鹿しくなってきた。
「彼女に対してそれは有り得ないんだけど」
昔から謙吾の性格は知ってるけど、今日に限ってこの態度に余計イライラが増した。あたしは一旦腹を踏んづけてから謙吾から背を向ける。普段ならこの状態なら直ぐにでも部屋を出てってやるのに少しの期待があたしをこの部屋から止めた……。
「悪かったって。俺だって今日は何処に行くとか、色々と考えてたけどさ、雨だからしょうがないだろ」
溜め息と共に聞こえてきた謙吾の声に、鬼の形相をしたあたしが振り返ろうとした今まさに……。
「俺だって楽しみにしてた。でもさ、何処かに行かないと楽しめないってのは俺たちにはないだろ?今だって一緒にいれて楽しいっつうか、安心するっつうのか……ああーもー!」
急に声を張り上げた謙吾にあたしは振り返れば、あちらも背中を向けて髪の毛をグシャグシャにしている最中だった。