瑠璃の風
瑠璃の風
ここは海に臨む町。
僕はこの町に生まれ、この町に育った。
この町には海がある。
この町には風がある。
この町には友達がいる。
僕は幸せだと思う。
今日も僕は海の香りが満ちあふれるこの町を歩く。
朝の散歩は僕の日課だ。
この時間特有の張りつめた静かな空気に、市場から漏れる活気ある声がよく映える。
ひとびとが活動を始めた気配が伝わってくる。
町が目を覚ました。
僕はこの時間が大好きだ。
眠っている町もいいけれど、起きている町のほうが楽しい。
小さなこの町を一回りしてから海岸に向かうのがいつもの散歩コース。
途中、友達のおばさんに会った。井戸の水を汲んでいる。
僕に気づくと、温かい太陽のような笑顔を向けてくれた。
「あら、リリーちゃんおはよう。今日もお散歩?」
おばさんは僕のことを“リリーちゃん”と呼ぶ。
僕は男なんだけどな。