瑠璃の風
翌朝。
僕は日課の散歩に出た。
いつもと同じ海。
いつもと同じ町。
でも、なにかが違う。
なにが違うんだろう。
心が、ざわざわする。
「あーっ!ほら、ラッキーだよ、ラッキー。おはよう、ラッキー。」
「あれ、ミィちゃん。毎日こんなばあさんの相手をしてくれて、ありがとうね。」
「マリス、あなたはいつも自由気ままでいいわねぇ」
「チビ。ほら、今日はイワシだ。」
みんな友達だ。
みんな違う名前で僕を呼ぶ。
僕の名前は、なに――?
僕にはわからないよ。
僕は町を一回りし終えると、海岸へと続く白い坂道を上る。
一段一段かみ締めるように。
風はない。
空気が止まる、この感覚。
興奮で背筋がぞくぞくする。
目の前に光に揺れる海が広がると、もう抑えきれない。
「にゃあ。」
僕はいつもの岩まで一気に駆けた。