瑠璃の風

海に近づくにつれて潮の香りが強くなり、全身が痛いほどだ。

風はない。

いつも風が駆け巡っているこの町だけど、朝と夕方に、ほんの一時、ぴたりと風が止むのだ。

心臓がどきどきする。

毎日のことなのに、この、空気が止まる瞬間がくるたびに身体に軽い電流が流れるような感覚に襲われる。

僕はできるだけゆっくり海への道を行く。

いつもと同じ海。
いつもと同じ町。
いつもと同じ僕。


ふと、僕の鼻がいつもと違う匂いを感じとった。

なんだか悲しい匂い。


僕は変化が嫌いだった。
いつもと違うものがあったり、いつもと違うことが起こったりするとすごく不安になって足が重くなるのだ。

でもこの時はなぜかそういった不安はまったく湧いてこなくて、僕の足はいつもと同じように動き続けた。
いや、むしろいつもより足が軽いような気さえした。

なんだろう、この感じ。

石畳の階段を上りきると、眼下には一面の青色が広がる。朝日が反射してきらきらと眩しい。

僕は思わず少し目を細めた。


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