瑠璃の風
彼女は今まで嗅いだことがないような、甘い香りがした。
僕はこの町には似合わない香りだな、と思った。
でもその香りは僕の胸をぎゅううっと締めつけて、僕は苦しくなった。
「名前、なんていうの?」
僕は隣にちょこんと座る彼女に尋ねた。
「ルリよ。あなたは?」
「うーん……。」
僕は困ってしまった。
なぜなら、僕はいろいろな人からいろいろな名前で呼ばれているのだ。
「どうしたの?」
「僕、名前、分かんないや。だって僕、いろんな名前で呼ばれてるから。」
「じゃあ、自分で決めればいいじゃない。自分で、自分の名前を見つけるの。」
ルリは海に目をやった。
「わたしも自分で決めたもの。」
ルリは当然のことのようにいうが、僕はそんなこと考えたこともなかった。
だが、その言葉がじわじわと頭に染み込んでくるにつれ、自分で名前を決めるとはなんてすてきなことだろうと思われてきた。
「じゃあ、僕の名前は……。」
しかし、考えようとしたとたんに頭の中が真っ白になった。
なにも思い浮かばない。
僕の名前。僕の名前。
名前って、どうやって決めればいいんだろう。
必死で考えるが、頭の中は相変わらず真っ白で、僕は焦った。