瑠璃の風
「どうしよう。なんにも思い浮かばない。」
僕の言葉に、ルリは声を立てて笑った。
「そんなすぐには無理よ。わたしも自分の名前を見つけるのに何年もかかったもの。」
「何年も……?」
「そう。そのうち自然に見つかるものよ。」
明るく語るルリは朝日のように輝いていて、でも、最初に感じた悲しい匂いは消えることなく、それどころかますます強まっていた。
沖から吹く風がルリの髪を優しく撫で、町へと駆けていった。
「そうなのかな……。」
僕はルリのこの甘く悲しい匂いがどこからくるものか突き止めようと、深いブルーの瞳を覗き込んだ。
「……?」
僕の視線に、ルリは可愛いらしく首を傾げる。
「ルリって……悲しい匂いがする。」
僕が素直に思っていたことをいうと、ルリは少し驚いたような顔になった。
そしてそれから、僕の瞳を覗きかえしてきた。
「わたし、悲しいの。」
「……どうして?」
「あなたは悲しくない?」
「悲しくないよ。僕は幸せだから。」
「わたしだって幸せよ。幸せだけど悲しいの。」
「幸せだけど、悲しい?」
僕はわけがわからない。
「幸せだけど、悲しい。」
ルリは繰りかえす。