激しく愛して執事様 SWeeT†YeN ss集
第1話 雇い主

─────イタリア。トスカーナ地方の高級ホテルのスイートルーム。ここを一ヶ月近く貸し切る事のできる男が、俺の目の前で優雅に頬杖をついた。



「うちの娘は、天真爛漫だ」


 中年にしては彫りの深い端整な顔を深刻そうに歪ませた。


 俺は小さく頷くと、この男の次の言葉を待つ。



 世界的に有名な作曲家。そしてピアニストの妻と世界中を演奏旅行で旅している彼は、今日から俺の雇い主になった。



 両親を事故で失い、一人で生きていこうとしていた俺に男は仕事を与えてくれた。それも、願ってもいない好条件の仕事内容だ。



「君が、執事を引き受けてくれて本当に良かった」


「こちらこそ、感謝しております」


 二、三年真面目に働いて金を貯めれば、俺もそこそこの年齢になる。それまで執事として頭を下げてやろうと思ってた。

 見よう見まねで片膝をつき、その上に片腕を乗せて深く頭を下げる。


 雇い主は、「おお、様になるな……」と感心のため息をもらした。


 余裕だな。


 執事の仕事は、日本に離れて暮らしている一人娘の世話だそうだ。現在は、祖母と暮らしているそうだが……その方の具合があまり良くはないらしい。


 小娘一人黙らせて金を稼ぐなんて余裕だ。頭を下げながら、口元を引き上げた。



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