激しく愛して執事様 SWeeT†YeN ss集
舞踏会の夜
────バロック様式の豪華なゲストルーム。
天上が高く、施されたダイナミックな彫刻はまるで中世ヨーロッパへとタイムスリップしてしまったような感覚に陥る。この屋敷は素晴らしいな。
「柏原っ♪ 素敵な朝だったわね!」
お嬢様とイーニアスの他愛ない会話は、昼近くまで続いた。暇をもて余した貴族。なんて厄介な代物だ。……腹がたつ。
この怒りは執事としての怒りなのか?
だいたい何杯ものモーニングティーを給仕し続けた執事の身にもなってみろ。最後の一杯は、すっきりとした柑橘フレーバー甘さを抑えた紅茶を選んだ。お嬢様は大変満足されていたようだが、イーニアスも彼女と同じものを味わい満足感を共有したのは二人だけ。
「ねえ柏原! 聞いてるの?」
「はい、お嬢様。聞こえておりますよ」
執事という職務に"干渉"は無意味だ。先ずは、主のご要望を満たすことだけ最優先に考えてればいい。
行き場のない怒りは呑み込め……
「それでドレスは、何着用意してきたのかしら? 王子様との舞踏会なのだから、私をうんと可愛いお姫様にしてね! 柏原」
両手を組んで、恍惚とした表情であさっての方向へと目をやるお嬢様。フリルのスカートを、揺らして小さな三拍子のステップを刻む。
「ワルツしか踊れないけど……大丈夫よね? ダンスのレッスンをもっと真面目に受けておけばよかったわ」
そのままクルリとターンを決め、ゆっくりと左に傾く我が主。
「ぎゃっ!?」
夢から覚めた姫は、腕を振り回してスローモーションのように倒れていく。
咄嗟に身を翻して、お嬢様がバロックの堅い床に叩き付けられぬように抱きしめる。
甘い香りが鼻孔を擽る。
彼女は、くっきりとした可愛らしい二重瞼を丸くさせ、きょとんとした。
「お怪我はございませんか? お姫様」
膝がズキズキと痛む。
「大丈夫……ごめんなさい」
俺のジャケットをキュッと小さく掴むと、シュンとする彼女。