激しく愛して執事様 SWeeT†YeN ss集
珍しく素直だな。
乱れた髪を、優しく撫でて整えてやる。照れ臭そうに笑う彼女は目を細めて、俺の手を気持ち良さそうに感じていた。
「本番で転けないようにしないとね……」
「そうですね。皆様の手前、無理は禁物です。ですから、舞踏会の約束はキャンセルされるのが最善の策でしょう」
「嫌よ! 行くったら、行くわ!」
彼女は俺の手を払いのける。
……何故わからない? 俺がどれだけ嫉妬いているか。
「はやくドレスをだしなさい柏原」
「かしこまりました。直ぐに、ご用意いたします」
彼女をカウチに座らせると、無表情のままイブニングドレスを広げてみせる。
「柏原、怒ったの?」
「いいえ、全く。私は、貴女の執事なのですからこれでいいのですよ。お嬢様」
「怒ってるでしょ」
「いいえ。もう同じ質問はなさらないでください。ヘアメイクは、この屋敷のサーヴァント(使用人)が行ってくださるようなので、そちらの方にお願いしておきましょう」
「柏原……」
コンコンと、ゲストルームの扉が叩かれた。
「はい」返事をしてから、ゆっくりと扉を開く。
「イーニアスです」
本日の舞踏会で彼女のパートナーとなり、主役となるべく男だ。プラチナブロンドの髪は、嫌味なくらいに光り輝き、紳士的に頭を下げる。
舌打ちを噛み殺しながら、俺も深く頭を下げた。
「カシワバラ、今少し時間ありますか?」
「私ですか?」
「イーニアス!」
お嬢様は、その爽やかな青年に駆け寄る。
「マイレディ! マリカ! 舞踏会のドレスをチョイスしていたの? どれも素敵だね、君によく似合いそうなものばかり! カシワバラはセンスがいい」
広げられたドレスを見つめて微笑み、イーニアスはお嬢様の頬にキスをした。
ただの挨拶だ。わかっている。
だけど、できることなら切り刻んで海のも屑にしてやりたい。ゲストルームにまで侵入してくるなど、もはや重罪だ。
コイツ……本当に彼女に好意を寄せているというのなら、俺は赦せない。