激しく愛して執事様 SWeeT†YeN ss集

────日が落ちて、夜の帳が訪れる。華やかな音楽がどこからともなく聴こえてくると、それが舞踏会の始まりの合図。


 紳士と淑女が集い音楽と踊りと会話と酒をたしなむ社交の場所。


 従来、十八世紀頃まで舞踏会とは典礼や儀式などの際に宮廷で行われていたもので、現在はそれの真似事をしているだけだという。

 しかし、マーティン家のダンスホールは素晴らしく豪華で本格的。

 窓の外にはカールトン・ヒルを囲む小さな燈が見える。壁や天上には、やはり決定的なバロック様式……不規則な美学が用いられている。



 執事は舞踏会の参加を許可されていない。待機すると決められた場所は出入り口付近のギャレのみ。

 ギャレでは、このマーティン家に仕えている者、スチュワード(家令)、ヴァレット(従者)それにメイドやボーイで賑わっていた。


 紫音家に仕えて、執事として、あるべき理想の姿はそれなりに追求してきたつもりだ。彼女だけの為に、彼女が求める事をやってきた。


 気休めにここのギャレーを見学してみる。王室制度の根強く残る……いわば本場のサーブは流石に素晴らしい。

 
 適度な量に注がれたシャンパン、熱いスープを冷まさぬように運ぶ姿、食べやすいように工夫され尽した食材たち。




 カントリーサイドから来た金持ち達の豪華なイブニングドレスが揺れている。そこを縫うように、ワインを華麗に注いで回るバトラーの身のこなしは見事だ。






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