激しく愛して執事様 SWeeT†YeN ss集
第5話 華は咲き乱れ
────紫音家にやってきて、初めての春。
広大な庭園には様々な花が咲き乱れて、華やかな香りと、豊かな色彩を楽しませてくれている。
そして、今日もその贅沢な静けさをぶち破るのは我が主(アルジ)の茉莉果お嬢様だ。
「柏原! 桜が見たいわ! お花見に行きましょうよ! お花見! お花見!」
紫音家の庭園には、百種類を超える植物が生息しているにも関わらず桜の木が一本もない。
何故、桜がないのかは執事である俺には分からないことだが、作者の都合上、花見へは行くには紫音家から外に出ることが望ましいようだ。
「かしこまりました。お嬢様、桜並木をドライブでもいたしましょう」
本邸から近場で、三ヵ所ほど桜並木の名所がある。こんなこともあろうかと、事前リサーチをしておいてよかった。
この小娘ときたら、俺にわからないことがあると親の仇とばかりに俺を責めてくる。
「嫌よ! ドライブじゃなくて、シートを敷いてお弁当食べたりしたいのよ!」
お嬢様が指を差したのはフルハイビジョンの大型テレビだ。
ああ、なるほど……これが日本の大衆文化“花見”か。
一般庶民共は、桜を眺め狭いブルーシートの上で、楽しそうに弁当を食べるのか……。
楽しいのか? これが。