会いたくなったら、上を見上げて
「さっき、志穂が寝てる時に健一君と話してきたよ」

えっ!? なんでお父さんが健ちゃんの事知ってるの?
名前だけでなく、健ちゃんそのものを知ってるの?
お父さんには何も話してないのに!

「ふふっ。“何で健一君のこと知ってるの?”って顔してるね」

「うっ」

「何でも。志穂見てたら分かっちゃうよ」

「どうして? 何で?」

「志穂がお父さんの見舞いの為に、わざわざおしゃれしてくるのが、ちょっと気になっていてね。いろいろ看護師さんたちに聞いたら。志穂が有名になってたよ。はっはっはっは」

「違う! 健ちゃんは何も悪くない。健ちゃんに何か言ったら、許さないから」

感情が入り過ぎてしまった。
お父さんにこんな事言ったの、初めて。
こんなにどなったのも初めて。

「志穂がこんなに怒鳴るなんて、初めてなのかな」

「へっ!?」

「久しぶりに怒鳴られたなぁ。志穂はやっぱり母親似なのかな。おっちょこちょいなとこも、そのまんまだ。」

お父さんの笑顔。
柔らかい。

「いいかい志穂。勘違いするな。お父さんは健一君に『これからも志穂をよろしくしてやって下さい』と、お願いに行ってただけだよ」

「どう言うこと?」

「お父さんが退院しても、志穂は健一君会うために病院に来るだろうからな」

そんな。やっぱり分かるんだ。
やっぱりお父さんには、私の考えが分かるんだね。
まいったな……。えへへ。
また……、目から。……涙が……。グスン。
お父さん。
ありがとう。
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