会いたくなったら、上を見上げて
健ちゃんの手。
おっきくて……。
あたたかい……。
このまま……。
このままどっかに私をさらって欲しい。
でも、私がいなくなったら。
お父さんが悲しむだろうな?
悲しんでくれるといいな。
悲しんでくれるよね。
お父さん。
健ちゃんは私の手を引っ張ったまま、エレベーターに乗った。

「こほっこほっ」

「大丈夫? 咳込んでるけど……」

「大丈夫だって。心配してくれてありがと」

健ちゃんは、ほほ笑みながら、最上階のボタンを押す。
閉まるドア。
エレベーターが動き出す。

「優しいな志穂」

「ううん。ホントに健ちゃんのこと心配してる……」

顔色が悪く見えたの、月の光のせいじゃないのかもしれない。
ホントに……。
ホントに健ちゃんの体調が悪いのかもしれない。

「健ちゃん。ホントにダメだったら、また今度でいいよ」

「ダメって? 何が?」

「体調……。よくないんでしょ?」

「なぁーに。大丈夫さ」

手は握ったまま。
ニッコリとほほ笑みながら、私に言ってくれた。
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