いきなり王子様
お姫様と女王様


大学を卒業してからの最初の二年くらいなら、笑顔が最強の実力でも構わない。

よっぽどできのいい人材でなければ、入社してすぐに即戦力になれるわけではないし、周囲からのアドバイスや導きなく成長できるわけもない。



『すみません、ここ教えてもらえますか』

『間違った資料を用意してしまいました』

『次の打ち合わせの日時、書きとめるのを忘れました』

『いただいた名刺が見当たらないんです』

『間に合いませんでした』



そんな、今の私なら決して笑って許してもらえないようなミスも、入社してしばらくの新人なら許されるんだ。

女の子なら笑顔という付随的な武器を使って。

たとえ無意識だとしても、入社年数の浅いうちは周囲もその武器を軽く受け止めてくれる。

私だって、何度もその武器を使って仕事をこなしてきたと、自覚はあったけれど。

振り返ってみて初めて知ることも多いんだってことを、その武器を手放さなくてはならない状況になって初めて知った。


『笑って許されるミスでもないし、そんな年でもねーだろ』


まるで私をバカにするような冷たい声が落とされた瞬間に知ったのは、目の前にいる経理部の部長の意地の悪い顔がとことん好きになれないって事と、今の私にはその言葉に反論できるものが何もないってことだった。





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