いきなり王子様
無意識のうちに強張らせていた体をどうにか解放させて、それでもまだ竜也への鼓動の速さは続いているけれど。
「竜也はそんな甘い言葉、言い慣れてるのかもしれないけど、私、ほんとに。
男の人と密に付き合った経験少なくて、それに長続きしたこともないし。
だから、お願いだから今日はこの辺で打ち止めにして」
自分でも何が何だか。
『打ち止め』だなんて言葉、以前私がパチンコを存分に楽しんでいた事がばれそうだし、そうでなくても脈絡のない言葉を並べてしまって、きっと竜也は呆れいているはず。
昨日今日と、まるで私を知らない世界に引き込んで、振り回している竜也にどうにかついてきたけれど、それももう限界だと感じる。
私を抱きしめて、熱すぎる唇を、そして吐息を与えらえて許容量オーバー。
大人になって何年も経っているというのに、なんて私って恋愛経験値の少ない女なんだろう。
付き合った事も、体を重ねて愛情を確かめ合ったことも多少はあるというのに。
こうして真正面から『逃がさない』だの『抱きたい』だの言われて、それまでの経験の薄っぺらさが露呈されただけだ。
それを自覚していたつもりだったけれど、思っていた以上に私はまだまだ成長過程なのかもしれない。
そんな自分にがっかりしながら小さくため息を吐いて、ようやくの想いで視線を上げた。
「いい年した女なのに、ごめん。がっかりしたよね」
竜也は片手を私の背中に回したまま支えてくれ、もう片方の手で私の手を握ってくれた。
「いい年したお姫様が、他の男に育てられていなくて嬉しがってるんだけど?
自分のキスと言葉だけでギブなんていう女、可愛いって思わない男いないぞ」
「だ、だからそんな言葉が無理なの。体が熱くなるしドキドキし過ぎて息があがりそうなセリフ垂れ流さないでって言ってるのにー」
「垂れ流し、してるつもりはないけど、俺、奈々の事を気に入ってからかなり経つから。今までずっと備蓄していた言葉と思いが垂れ流しになってるのかもな」
竜也の腕に力が入って、私の顔は彼の胸に押し付けられた。
背中をポンポンと何度か叩いて、竜也の指先が私の首筋を優しく這う。