いきなり王子様
温かく抱き寄せられて、体全体でその居心地の良さを感じていると、竜也がゆっくりと話し始めた。
「あの日、こうして璃乃を抱きしめていたよな」
「……璃乃ちゃん?」
「ああ。病院の中庭のベンチに腰かけて、璃乃を膝の上に乗せた奈々は、本当に綺麗だった」
また。
また甘くて私をとろけさせるような言葉が続くんだろうか。
慣れてないからやめて欲しいとあれほど言ったのに、この男はそれをやめるつもりはないらしい。
いい加減にして、と思いを含めた視線を見せると、竜也はそれに気づいているのかどうか、関係ないとでもいうように口角を上げた。
「璃乃が抱えている病気は、すぐに命に関わるものでもないし、成長して体が大きくなれば、改善されるとドクターも言ってたんだ」
「あ、そうなんだ」
突然声音が変わり、私を気遣うような瞳を私に向けながら竜也はぽつりと話し始めた。
「確かに呼吸しづらくてぐっすり眠る事が難しい時もあるから、子供にはつらい病気なんだけどな。
璃乃……今も昼寝してるけど、眠りは浅いはずだ」
ソファの上で眠っている璃乃ちゃん。
たしかに呼吸は荒くて熟睡しているようには見えない。
きっと質のいい深い睡眠ではないはずで、じきに起きてしまうんじゃないかと思う。
「いつも?」
「ああ、姉貴が言うにはかなり浅い眠りらしい。
命に関わる病気ではないけれど、それでも手術に踏み切るのは璃乃がぐっすりと眠れるようにっていうのが一番の理由」
「手術すれば、ぐっすりと眠れるようになるの?」
「多分な。手術してみないと確実な事はわからないけど、今よりは改善されるらしい」
苦しげな竜也の声に、私も少し落ち込んだ。
久しぶりに会えた璃乃ちゃんが、抱えているつらさは予想以上なのかもしれない。