いきなり王子様
「まあ、手術するって決めたからには璃乃に頑張ってもらうしかないんだけど。
璃乃が頑張ろうとしているのには、自分の体調の事以外にも理由があるんだ」
「理由?」
竜也が璃乃ちゃんの事を話す時にはどこか優しい笑みを浮かべながら目を細めていたのに、突然真剣な声に変わり、その表情も硬くなった。
どうしてなのか聞きたいけれど、聞ける雰囲気でもなくて、近い距離のその瞳をじっと見つめた。
そんな私に気づいたのか、ふっと表情を緩めた竜也は私の頬を何度か手の甲で撫でると、安心させるかのように頷いた。
そして、
「璃乃は、姉貴の為に……自分の母親の為に手術を受けるんだ」
それに賛成しているわけではないような声。
「姉貴があまりにも自分自身を責めるから、璃乃はそれをどうしていいのかわからなくて困ってるんだ。
まだ子供だから、姉貴の気持ちをどう受け止めていいのかもわからないし、自分が悪いんだと思い込んでるところもある」
「ねえ、璃乃ちゃんのお母さんが自分を責めるって……璃乃ちゃんの病気が自分のせいだって思ってるの?」
「は?……あ、そうか。奈々は、姉貴の気持ちを」
「うん、多分、わかってる。あの時からね」
「そうか、そうだよな、じゃなきゃ璃乃にあんな言葉、言えないよな」
昔を思い返すように視線をさまよわせる竜也は、私を抱きしめている手に力を込めて更に抱き寄せた。
私の頭の上に顎を乗せ、はあ、とため息を吐き出した。
璃乃ちゃんのお母さんのための手術って、初めて聞かされたけれど、私は驚く事なくその事を受け止めた。
まだまだ小さな璃乃ちゃんが抱えているのは病気だけではなくて、お母さんの負の感情だって同じように背負っている。
普段は明るく笑って元気にはしゃぐ璃乃ちゃんの姿は、それすらきっと、お母さんを安心させるためのものに違いない。