いきなり王子様
私が初めて璃乃ちゃんに会ったのは、ある総合病院の耳鼻咽喉科の待合室。
璃乃ちゃんは診察が終わって、その後お父さんとドクターが話をしている間、一人で待合室で待っていた。
私は自分の診察の順番を待ちながら、隣でおとなしく座っている小さな女の子に
『ちゃんと一人で待ってるなんて、お利口さんだね』
と声をかけた。
これが私と璃乃ちゃんの出会い。
私は、まだ小学校にもあがっていないとわかる小さな女の子が、椅子に座っておとなしくしている様子に感心するとともに、どこか違和感を感じていた。
『おとうちゃんが、先生とお話してるの。璃乃の病気の事で』
姿勢よく座っている彼女は、人見知りをすることもなく、見も知らない私に笑顔を向けてくれた。
幼い彼女の顔と、はっきりと話すその口調の様子にギャップを感じて、思わずかわいい顔に見入ってしまった。
『璃乃ちゃんって言うの?可愛い名前だね』
『……へへっありがとう』
ほんの少し照れた顔はうっすら赤くなり、年相応に見えて、ほっとしたことも覚えている。
『お姉ちゃんも、病気なの?』
『そう。どうしてかわからないけどね、体がくらくらしちゃって。
めまいってわかる?』
『……めまい?』
『ははっ、まだまだわかんないよねー。お姉ちゃん、時々目の前がふらふらするから、先生に診てもらうの』
へえー。と呟いた璃乃ちゃんには、私が話す言葉がよくわからないようで、首を傾げたまま私をじっと見つめていた。
幼稚園児に違いない彼女がめまいを詳しく知っていても妙だから当然か。
『今は大丈夫。くらくらしてないから、璃乃ちゃんの可愛い顔もはっきりと見えるよ』
にっこりと笑って、璃乃ちゃんの頭をそっと撫でると、私の言葉に安心したように目を細めて、
『先生に診てもらったら、絶対にすぐに治るよ』
私を励ますように大きな声をあげた。
その顔からは、ドクターの事が大好きで、心から信頼しているんだとすぐにわかった。