いきなり王子様
「奈々と璃乃が、病院の中庭のベンチで話してる所を見たんだよな、俺」
思い返すような竜也の声。
「大抵は義兄さんが病院に付き添っていたんだけど、たまたま仕事の都合がつかなくて、姉貴も璃久が熱を出して来れない日があって。
で、俺が璃乃を病院に連れてきた日に、二人が一緒にいるところを見かけたんだ」
私の目を見ながら、そして、その言葉によって私がどう反応するのかを気にするような竜也に、私はそっと笑って。
「そうなんだ。声をかけてくれれば良かったのに。
それほど親しくなかったけど、同期なんだから顔と名前は知ってたはずでしょ?」
ほんの少し拗ねたような声で責めてみた。
一年ほど前なら、確実に私の事を知っていたはずなのに、私の記憶の中には、璃乃ちゃんと一緒にいる時に竜也から声をかけてもらった記憶はない。
どこか遠くから、こっそりと私と璃乃ちゃんの様子をうかがっていたとしたらなんだか落ち着かない。
「ねえ、私、バカなこと言ってなかった?璃乃ちゃんと一緒にいる時って、子供が喜びそうな遊びをやってたんだよね」
思い返すと照れくさい。
広い中庭でバドミントンをしたり、あやとりをしたり、ただ二人でおしゃべりに興じたり。
まだ幼稚園児だった璃乃ちゃんとの会話は思いのほか楽しくて、自分の精神年齢に不安も感じたけれど、大きく口を開けて笑いながら楽しい時を過ごしていた。
そんな様子を見られていたと思うと、照れくさいし恥ずかしい。
「バカな事はしてないし言ってなかったけど、まあ、璃乃との年齢差を感じないほどには楽しそうに笑ってたな」
くくっと喉を震わせる竜也は、からかうような視線を私に向けた。
「楽しそうだったし、綺麗な女だなと思って眺めてた」