いきなり王子様
「ま、またそんな甘い言葉、やめてよ。
もう許容量いっぱい。恋愛慣れしてないから、私が照れるようなこと言わないで」
まだまだ私をからかうような言葉を呟きそうな竜也に、少しきつめの声で釘を刺した。
この家に来てから聞かされた璃乃ちゃんのことと、私が知らない間、私を見ていた竜也のこと。
「本当に、綺麗だった。自分だって病気で通院しているのに、いつも璃乃の面倒をみてくれて、そしてあんなにかわいい顔で笑ってたんだからな」
「いつも……?」
「そう、いつも。璃乃が兄貴と通院して俺が付き添う必要がない時でも、病院に行ってた」
その腕に私を収めたままの竜也は面白そうに眉をあげた
「璃乃をかわいがってくれる、あまりにも綺麗なお姫様に会う為に。
俺が病院に行っても、役に立つ事なんてないのに、璃乃に付き添ってたんだよ」
「……お姫様に……?」
その答えはわかるような気がしたけれど、それは私が望んでいる勝手な答え。
お姫様と呼ばれている私に会う為に病院に来ていた、と熱のこもった言葉を聞かされて、自分にいいような答えを頭に浮かべてしまう。
でも、それは私が都合よく考えている願望で、ありえない。
もしも私に会いたくて病院に来ていたのなら、とっくに声をかけていたはずだ。
もともと同期として顔見知りだった私達だから、璃乃ちゃんのおじさんだという理由で私に声をかけるなんて簡単だし、遠くから単純に私を見つめていただけなんて竜也のイメージとはかけはなれている。
それでも、竜也は私の願望を満たすかのような甘い声で。
「奈々のことを病院で見かけるたび、同期のかわいいお姫さまっていう印象よりもずっと近い距離にいるんだなと思うようになったんだ。
そして、俺はどうしても奈々を手に入れたくて、そんな自分が怖くなった」