いきなり王子様
あ……また、だ。

また、そんなとろけるような言葉をそんな甘い顔で。

「璃乃と一緒にいる奈々を見てからずっと、同期としてみんなで飲んだり、研修で机を並べている時、目の前にいる綺麗なお姫様が、欲しくてたまらなかったんだ。
自分の見た目にプレッシャーを感じながら、その見た目で周りから誤解されて取り残されないように気を張っている、不安定なお姫様」

「そ、そんなに不安定でもなかった、けど」

「まあ、真珠という同志もいたし、第一俺らの同期ってみんないい奴らばかりだからな。人を見た目や先入観で判断しないし。
それは幸せなことだと思う」

な?と私に同意を求めるように首を傾げて、それでも竜也の言葉は続く。

「同期の中での俺と奈々の距離感をどうすることもできなくてもどかしかった。
結局俺は工場勤務で奈々と一緒にいられる時間なんて限られてるからと言い訳して奈々を一旦は諦めたんだ」

何かを思い返すような声は後悔している気持ちも含まれているようで、どことなく切ない。

「一旦。そう、一旦は奈々に対する気持ちは大したことじゃないと、そのうち薄れていく感情だと言い聞かせては諦めようとしたんだ。
同期としての縁だけに満足して、奈々の生活に俺の存在を入り込ませない方がお互い楽なんだろうと、そう思って諦めようとしたんだ」

私を抱きしめる竜也の腕の強さは大して強いものではないのに、言葉ひとつひとつが私に与える強さは半端なものではない。

昨日からずっと、竜也に引き寄せられながらもどうにか踏ん張って自分自身全てを明け渡さないように四苦八苦していたのに、今の言葉で何故か白旗を上げてしまった気がする。

そして、私を求めようとする気持ちを封印して、諦めようとしていたと、そう言った竜也に少し腹もたってくる。

「どうして勝手に私を諦めようとしたのよ」



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