いきなり王子様


「面白くないって、他人事だからそんな簡単に言えるんじゃない?
少なくとも、司くんの彼女の気持ちも考えなきゃ」

まさに正論だな、と自分でも認めつつ、それでもやっぱりそれは正しいだろうと思い言うと。

「その彼女は司に愛されてなくて、おまけに司にすがってるだけの関係なら、彼女にとっては早く別れる方が未来は明るいんじゃないの?」

手元の資料をまとめながら、さも簡単に、まるで私を相手にしていないかのような声。

どこか小ばかにされたような空気が部屋に漂うのは気のせいじゃないはずだ。

瞬間、むっと腹も立ってしまった私は『お姫様』という見た目には似つかわしくない、それでいて私の本来の性格をそのまま表に出した厳しい視線で甲野くんを睨みつけた。

「つ、司に愛されてないって……どうして甲野くんが知ってるのよ。
そんなの本人じゃなきゃわからないでしょ。簡単に憶測で言っちゃだめだよ」

「憶測じゃない。事実だ。司が彼女だと公言して側に置いている女に会った事あるんだ」

「……は?な、なんで?」

あっさりとした口調で、淡々と話す甲野くんは、以前からの印象通り冷たい表情をまとったクールな様子で。

話される言葉すらうすら寒くて。

「司は彼女を愛してはいないよ。大切には思ってるらしいけど、それがお互いを不幸にしてるってわかってて離れられない不毛な関係だ」

「……」

どこか苛立たしげなその声に、ほんの少しの居心地の悪さを感じた。

「惚れた女と、大切な女とは違うって、あいつに言った事あるんだけどな。
……俺とはまた状況が違うから、ま、仕方ないか」

思わず呟いてしまったような甲野くんの言葉の意味がわからなくて、じっと彼の顔を見入っていると、

「あ、悪い。とにかく司は彼女の事を大切にしているだけだ」

「それって付き合ってるってことでしょ?」

「違う」


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