いきなり王子様
吐き出すように呟いた私の声は思いの外厳しいもので、目の前にある竜也の瞳が不安げに揺れた。
「勝手に私を気に入って、苦しんで、それで勝手に諦めようとしてって、どういうこと?」
「どういうって、奈々は俺のことを大して気に入ってるわけでもなさそうだったし遠距離だし。
俺が一方的に気に入ってる気持ちをぶつけても迷惑だろ?
お姫様って呼ばれるほどの見た目なんだから、本社にでも恋人いるんだろうなと思う俺って自然だし」
「自然なんかじゃない。本社にもそのほかの場所にも恋人なんていません。
それに、好きになったら遠距離くらい乗り越える。
あ、それと、今までは特に竜也のことを気に入ってなかった、というより気にしてなかったから、これは正解かも」
「……あっそ」
竜也は呆れたように呟いて天井を仰いだ。
私の体に回された手はそのままで、離すつもりはないようだ。
言葉の温度と、回された手のぬくもりの落差に可笑しさを感じるけれど、竜也がこれまで抱えてきた思いを直接聞かされてじんわりと柔らかい感情が溢れる。
私のことを想って切なさ全開……かどうかは謎だけど、私を欲して過ごした時間が確かにあったと知って、これを嬉しいと思わない女はいないと思う。
「何?にやにや笑ってるけど」
面白くなさそうに呟く竜也。
「にやにやなんてしてない」
「……してるし。俺の話を聞いて、優越感?」
「あー。そうかも。同期の出世頭である、そして王子様と呼ばれている竜也の心を右往左往させることができるなんて、優越感というか、自慢?」
「は?」