いきなり王子様
『璃乃ちゃんは、幼稚園楽しい?』
私が作ったマドレーヌを頬張っている璃乃ちゃんに問いかけると、
『うん、すっごく楽しいよ。運動会の鼓隊でね、璃乃は小太鼓するんだ。
毎日練習大変だけど頑張ってる』
嬉しそうに答えてくれた。
年相応な明るい反応が新鮮で、不思議とほっとしたことを覚えている。
普段から『いい子』な璃乃ちゃんは、我儘も言わず、お父さんと一緒に診察を受け、鼻や耳の治療をおとなしく受けている。
子供なら、病院に来るよりもお友達と遊びたいだろうと思うけれど、文句も泣き言も口にしない様子は立派だとしか言いようがなかった。
『璃乃ちゃんは、病院が嫌いじゃないの?』
ふとそう聞いてしまった私は、その瞬間、聞いた事を後悔したけれど、そんな私の気持ちですら気遣うような声で。
『好きじゃないけど、来ないと病気は治らないから』
どう見ても寂しそうに笑顔を作った。
それでも、あっという間に明るく視線を私に向けると
『奈々ちゃんにも会えるから、前よりは嫌いじゃないよ』
『そっか。私も病院は嫌だけど、璃乃ちゃんと会えるのは楽しみにしてる。
また、マドレーヌ作ってくるから一緒に食べようね』
そんな私の言葉に、うんうんと嬉しそうに大きく頷いた彼女は、心底それを楽しみにしてくれているとわかって、私も嬉しかった。