いきなり王子様


夕日が中庭を照らして、ほんのり赤くなった璃乃ちゃんの頬は、まだ涙でぬれたままだけれど、私の膝の上で気持ちが落ち着いてきたのか、ゆっくりと話してくれた。

時々、小さな手をぎゅっと握りしめて、思うように言葉をつなげられない自分をもどかしそうにしながらも、ゆっくりと。

そして璃乃ちゃんの心が悲しみに覆われている理由に、私の心も悲しくなった。

ほんの10分ほどだったけれど、璃乃ちゃんが抱えている重い感情を受け止めるには十分な時間だったのは、私にもその感情に戸惑い、どう折り合いをつけていいのか悩んでいた時期があったからだ。

璃乃ちゃんが持て余している切なさを、私は小さな頃からずっと受け止めていたから。

だから

『璃乃ちゃん、よく頑張ってるね。それに、優しいね』

そう言って、璃乃ちゃんの体をぎゅっと抱きしめた。

まだまだ小さなその体には、璃乃ちゃんのせいでも、誰のせいでもないのに、生まれつきの病気を抱えているというだけで周りみんなが気を遣って璃乃ちゃんを追い詰めている。

『もう、我慢しなくていいんだよ』

そう。

璃乃ちゃんは我慢ばかりしてきたから、もう肩の力を抜いて子供らしくのびのびと生きていいのに。

そう思った私は、璃乃ちゃんがまるで、小さな頃の自分に思えて仕方なかった。

小さな頃というのは間違っているのかもしれない。

大学生になって、実家を離れ、一人暮らしを始めるまで抱えていた感情。

それはきっと、今も私の性格に影響を与えているし、この先もずっとだろうとは思うけれど。

それをこの先璃乃ちゃんも背負っていくのかもと思うと、可哀そうで仕方がなかった。

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