いきなり王子様
「や、妬いて?って、それは言い過ぎでしょ?」

「いや、言い過ぎなんかじゃない。ずっと姉貴に気を遣って泣けなかった璃乃にとって、泣いてもそれが罪じゃないと教えてくれた奈々は、天使のような存在だったな」

「て、天使っ」

竜也のその言葉に、はっと体を起こして彼を見ると、そこには。

にやりと笑い、必要以上に顔を近づけた整った顔。

吐息を直接感じるくらいの距離に鼓動が跳ねるのを感じる。

思わずぐっと言葉を詰まらせた私の仕草なんて、彼にとってはなんでもないことのように、更に近づいて、そして更に近づいて。

「天使のようなお姫様は、ようやく俺のものになった、よな?」

「お、俺の、て、天使っ?」

竜也の言葉に次々と驚かされて、裏返った声ばかりを発している。

「天使なんて言葉は、私には似合わないよ。お姫様もそうだし、竜也も悪のりしないで」

ははっと笑いながら、ようやくそれだけを口にした。

照れる気持ちを隠すように俯くと、それを追うように竜也の目は私を覗き込んでくる。

「ちょっ、やめてよ……」

きっと、今の私の顔は赤いに違いない。

その原因は、竜也の言葉と視線。

今日この家に来て以来ずっと続いているような、それでいて慣れない居心地の悪さ。

「あの日、璃乃の気持ちを理解して、励ましてくれた奈々を見ていた俺は、言葉通り、お姫様に骨抜きにされた騎士ってとこか?
もともと同期として奈々を知っていたけど、見た目がきれいなだけの女だって誤解してた自分を殴りたいって思った瞬間でもあったな」

……どこまでこの男は……。

私が恋愛に慣れてないって、何度も言ってるのに、どうしてここまで私を甘やかせてくれるんだろう……。

今すぐ気を失って、この恥ずかしい空気から、逃げ出したい……。

無理だけど。
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