いきなり王子様
入社後の研修を受けた後、同期達は皆全国に配属され、散った。
俺たちのような建築系の新入社員と違って、スタッフ部門に配属された同期達は、研修期間も短く、早めに実践社会へと飛び込んでいた。
その中で際立って話題に出ていたのが『真珠』と『奈々』というツートップ。
同期全員、仲が良くて助け合いながら研修を乗り越えた事もあり同期の絆は強くて頼りにもなる。
男女とも恋愛云々に絡む絡まないに関わらず密に付き合っている。
そんな中にいて、俺はいつも輪の一歩外からみんなを見ながら、そんな空気を楽しんでいた。
そして、いつも目がいってしまうのは『お姫様』と呼ばれて人気が高い奈々だった。
小さな顔にバランスよく配置されたパーツはそれぞれに目をひき、大きな目でじっと見つめられると誰もがどきどきと、心を揺らしそうな、そんな顔。
華奢な体に長い手足。
色白な肌はいつも艶やかで、薄化粧だとわかるその見た目なのにいつも華やか。
同期のみならず、社内からの視線を集める女。
女に対しても、それなりの感情しか持たず、特に自分の懐で大切にしたいと思える相手に出会った事はなかった俺は、奈々に対しても深い思いを抱かないよう、無意識に気持ちをコントロールしていた。
どちらかと言えば、『女王様』と呼ばれて凛とした仕草が魅力的な真珠の方が好み。
普通に男としての欲を持つ俺にとって、奈々にはそれほど抱きたいという思いを持たないはずなのに、それでもこの手にとどめて囲いたいと、じわじわとした感覚に包まれていく自分を否定できなかった。
とはいっても、本社からは離れた工場での勤務に明け暮れる日々。
年に数回ある同期会で顔をあわせたり、会議で本社に出向く時にちらりとその顔を見かけられればいい方で。
奈々への想いが俺自身を縛るほどに強くなる事はなかった。
単なるお気に入りに近い感覚。
そう思って、自分の中で暴れそうになる感情を諌めていた。