いきなり王子様
そして、璃乃が診察を終えて、付き添っていた俺が姉貴に電話を入れた後。
璃乃がいるはずの病院の中庭に足を踏み入れた時。
義兄が迎えにくると伝えようと急いだ俺の足がふと止まった。
柔らかな夕日に照らされて、悲しい顔をしている璃乃。
ポロポロと頬を涙で濡らす璃乃の側に、思わず駆け寄ろうとした時。
そんな璃乃を、自分の膝の上にそっと抱き上げた女の横顔が、見えた。
「え……」
夕日に輝いて、まるで天使のような微笑みを浮かべている女は、ここにいるはずのないお姫様。
「まさか、……奈々?」
どうして彼女がこの場にいるのかわからないし、どうして璃乃と一緒にいるのかもわからないけれど、俺の視線の先にいたのはまさしく奈々だった。
会社では見た事のない、穏やかに笑って璃乃を励ますような表情は、それだけで。
一瞬にして俺の気持ちを掴むには、十分なものだった。