いきなり王子様
「ちょ、ちょっと……」
瞬間真っ赤になった奈々の頬を、手の甲で優しく撫で、親指で目じりをそっとたどった。
「こうして、璃乃の涙を拭いてただろ?」
「え?」
「あの日、病院の中庭で泣く璃乃の涙を、指先で拭ってた奈々が、俺には天使に見えて、声をかけられなかった」
どうして声をかけなかったのかと問われたからそう答えたけれど、俺の答えは奈々の予想の範疇を超えていたようで。
「……天使なんて……ガラじゃないし」
照れ隠しなのか強気な声で、それでいてかわいいその顔は俺が求めていたそのもので。
これが天使ではなくて、なんなんだ?
「奈々と会いたい気持ちもあったし、病院で奈々を探したこともあったけど、結局同期会以外で会える機会はなかった。
俺が本社勤務なら、奈々をもっと知りたくて声をかけたかもな。
でも、わざわざ遠距離恋愛をするために声かけるのもって思ってたから諦めたんだ」
「じゃ、どうして突然?」
「ん?どうして昨日奈々に声かけたかって?」
「……そう」
俺にとっては突然湧いた思いってわけでもなかったんだけど、勝手にその思いを抱えていただけで奈々に何もアクションを起こしていたわけでもなかったから、確かに奈々が不思議に思うのも仕方ないか。
好奇心と、不安げな表情を隠す事なく俺を見つめる奈々をじっと見つめ返しながら。
「昨日久しぶりに会って、仕事だとはいえ、かなり長い時間話をして。
やっぱりこの女が欲しいって思ったから、動くことにしたんだ。
奈々が、他の男の天使になるって思うだけでむかついたから。
……了解?」