いきなり王子様
竜也にずっと振り回されていた二日間で、私の気持ちは完全に竜也に取り込まれ、離してはもらえないと覚悟をするに至る。
恋愛のあれやこれやを、この年まで何も経験してこなかったわけではないけれど、それでもこの急すぎる展開は初めてだ。
だから、私が竜也の気持ちの濃度に追いつくにはもう少し時間がかかるかと思うけれど、それでもやっぱり気持ちはぐぐんと竜也に引き込まれている。
『好きか?』と問われれば『好き』と返せるくらいに気持ちが盛り上がる自分に不安がないわけではないけれど、確かに竜也に愛しさを覚えるし、これからもその気持ちは右肩上がりで突き進むだろうと、断言できる。
だから、竜也がこの一年間抱えていた私への愛しさと諦めを知って、私自身が悪いわけではないけれど、それでもほんの少しの申し訳なさも感じるわけで。
そんな気持ちの区切りとして、思いを寄せ合った今の竜也の顔を見たいし、私の顔を見て欲しいと思うのに。
それでもやっぱり駄目だった。
思った以上に頑固で照れ屋さんに違いない竜也の腕の力が緩んだのは、彼の鼓動が平常値に戻ってしばらく経った後で、璃乃ちゃんがお昼寝から目が覚めて姿を見せた時だった。
その時にはもう竜也の表情は普段と全く変わらなくて、口調すら落ち着き過ぎていた。
それが悔しくて唇をぎゅっと結んだ。
「奈々ちゃん、何か怒ってる?」
いつの間にか近くに立っていた璃乃ちゃんが首を傾げて聞いてくる。
「え?ううん、大丈夫、怒ってないよ」
璃乃ちゃんに気づいて驚いた私は、ははっとごまかすように笑ってみるけれど、璃乃ちゃんは不思議そうな視線を私に向けてくる。
寝起きでぼんやりとしている様子はかなり可愛くて、何だか見入っていると。
訳が分からないとでもいうような声で。
「どうして奈々ちゃん、竜也お兄ちゃんに抱っこしてもらってるの?
璃乃がいなくて寂しくて泣いてたの?」
本当に不思議そうにそう言った。