いきなり王子様
「あ、あ、あーっ。ち、ち、違うよ」

璃乃ちゃんの言葉に、はっと我に返る。

私の体は竜也の膝の上に抱き上げられ、そして彼の両腕に取り込まれている。

抱きしめられて、あまりにも顔も近くて。

「り、りの、ちゃん、なんでもないから、気にしないでっ……」

慌ててそう言いながら、竜也の膝から降りようとするけれど、彼はそれを許してくれず、更にぎゅっと抱きしめられて。

「ちょ、竜也、おろしてよ、璃乃ちゃんがびっくりしてる」

体をばたばたと動かしても、竜也は全く意に介さず。

どうでもいいだろう、みたいな落ち着いた表情で私を笑ったあと、その笑顔を璃乃ちゃんに向けた。

「璃乃も来い。奈々と璃乃を一緒に抱きしめるくらい、楽勝だぞ」

片手で私を抱きしめたまま、もう片手を璃乃ちゃんに向けて大きく広げた。

「ほんと?」

「ああ、来い」

竜也の言葉に大きな笑顔を作った璃乃ちゃんは、弾むように私達に向かって来た。

駆け足で私たちに飛び込んできたその小さな体を、竜也は上手に抱え上げた。

そして私と向かい合うように璃乃ちゃんを膝の上に乗せると

「俺の天使が二人。極上だな……俺の人生」

心からの満足げな声と表情を隠す事なく、露わにして。

竜也は私と璃乃ちゃんを交互に見た。

その顔に、改めて私の心は囚われてしまう。

ただでさえ王子様と呼ばれているその整った顔に、幸せからくる余裕と満ち足りた心が加わって、魅力は更に何倍にも増した。

二人にとって大切な日となった今日この日、竜也のこの顔を決して忘れずにいようと思った。

そして、

「私の王子様と、璃乃ちゃんというお姫様。私の人生も極上だよ」

私の言葉はそれぞれの心の琴線に触れるかのように響いた。

そして、三人でにっこりと笑い合った。


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