いきなり王子様
その後しばらくして、ゲームに白旗を上げリモコンを手放した私に構う事なく、竜也と璃乃ちゃんはゲームに燃えていた。
いつもなら、とっくにお母さんから『そろそろやめなさい』と言われてるんだけど。
と心細げに呟く璃乃ちゃんに、竜也はにやりと笑って
「もしもゲームの途中でお母さんが帰ってきたら、『今始めたばっかり』だって言えばいいんだよ」
それが当然のように、璃乃ちゃんに教えている。
そんな嘘のつきかたを、こんな純粋な女の子に教えるのはだめだろう、と突っ込もうとしたけれど、
「そっかあ、たつやおにいちゃん、頭いいね。うん。そうしようっと」
璃乃ちゃんは竜也に負けないにやりとした笑顔を浮かべて、竜也を称賛の気持ちに溢れた目で見つめ返していた。
その小さな体にやたら大きく見えるリモコンを両手で抱えて、心から楽しそうに体を揺らしている璃乃ちゃんを見ると、それはそれで当たり前なんだな、ともほっとする。
まだ小学一年生。
お勉強やおけいこ事ばかりじゃなく、思いっきり好きなだけゲームだってしたいに違いないし、大好きな竜也おにいちゃんと秘密を共有するわくわく感だって味わいたいはずだ。
それを璃乃ちゃん本人が理解していなくても、彼女は普通の女の子。
いつもお母さんに気遣われて心配されて、それを切なく苦しくも思っているばかりの女の子じゃないんだから。
あーあ。それでも。
こんなかわいい天使に嘘のつき方を教えてしまって。
まだまだ小学生のかわいすぎる女の子なのに、上手な嘘のつき方まで覚えちゃったらきっと、将来は見事な小悪魔に成長するに違いない。
まだまだ続きそうな二人のゲーム大会を見ながら、私はふふっと笑っていた。