いきなり王子様


「え、あのね、じょ、冗談はやめて欲しいんだけど……」

思いがけない言葉に、私は過剰に反応して声も上擦った。

「遠距離なんて、そんな、あの……その、で、誰と?」

そうだ、目の前の瞳が私をじっと見つめるから、つい私と甲野くんとで遠距離恋愛ができるかどうかという意味でとらえたけれど。

甲野くんの言葉には主語が抜けていたし、私との遠距離恋愛なんて、ありえないありえない。

今日会ってからずっと不機嫌な顔しか私に向けられてないのに、私ってなんて早とちりなんだ。

そう思い直すと、ほんの少しだけほっとして、慌てていた気持ちも落ち着きを取り戻す。

けれど、甲野くんの強い視線は相変わらず私にだけ向けられていて揺れる事もなく。

「俺と、お姫さまとの遠距離恋愛だけど?」

「はあ?」

そんな理解し難い台詞によって、一瞬落ち着いた私の鼓動は再びとくとくとくとく。

かなりの速さで活動再開。

「俺はこの近所に住んでいるから、お姫様とは離れて暮らす事になるし、それでも付き合うのなら、遠距離恋愛を受け入れないといけないだろ?」

そこでようやく私の頬から甲野くんの手が離れて、少し寂しくなったのは意外な感情で、ふとそう感じた自分に戸惑いつつも。

この数分で聞かされている言葉のどこを私は受け入れて、本気にして、そして何を答えればいいんだろうか。

「俺、遠距離ってしたことないんだよな。お姫さまは?」

「え?私?わたしも、したことないけど……って、そういう問題じゃないでしょう?」


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