いきなり王子様
「奈々ちゃん、美散ちゃんの事、嫌いなの?」
私の鋭い声に反応したのか、いつの間にか璃乃ちゃんが私たちをじっと見ていた。
お絵かきしていた色鉛筆を手にしたまま、どこか硬い表情で、不安げな瞳。
そんな顔をさせてしまったのが、明らかに私だと気づいて、慌てて大きな声をあげて否定した。
「違うよ。美散ちゃんの事、好きだよ。とっても可愛らしいし優しいし。
夕べも美散ちゃんのお店でおいしいご飯をいっぱい食べたよ」
早口の私の言葉を、ほんの少し首を傾げながら聞いていた璃乃ちゃんは、納得したのかしないのか、私には判断できないけれど、とりあえず小さく笑って。
「美散ちゃんのご飯、おいしいね。璃乃も、また行きたいな」
「そうだね、一緒に行こうね。あ、手術が終わったお祝いに、みんなで行こう」
「うん……」
「本当に、美散ちゃんの事、大好きだから安心していいよ」
どこか私の顔色を気にしている璃乃ちゃんを安心させるようにゆっくりとそう言うと、途端に璃乃ちゃんは大きな笑顔を向けてくれた。
「美散ちゃんのダーも、璃乃のこと好きって言ってくれるから、大好き」
「だ、だー?」
「そう。ダーが作ってくれる卵焼きはお母ちゃんのよりもおいしい。
でも、それはお母ちゃんには内緒なの」
嬉しそうに話してくれる璃乃ちゃんの言葉に、戸惑いながらも、何となく理解はできた。
ダーってきっと。
「美散さんの旦那さんの事?」
小さな声で竜也に聞くと。
「正解。美散はいっつも『ダーリン』もしくは『ダー』って呼んで、べたべたいちゃいちゃやってる。な?」
「うん。いっつもくっついてるの。ぎゅーって」
「ぎゅーってやってるやってる。な?」
からかうような竜也の声に、きゃっきゃと弾む璃乃ちゃん。
璃乃ちゃんに同意を求めないでよ。
まだ小学生なのに。
でも、初めて見る子供みたいにふざけた竜也の表情は新鮮で、新たな一面を発見したようで嬉しいかも。