いきなり王子様
いつの間にか竜也の膝の上に飛び込んできた璃乃ちゃんは、
「ねえ、今から美散ちゃんのお店にご飯食べに行きたい」
小さな声で、私と竜也、交互に視線を向ける。
どこか遠慮がちな様子からは、どこまでも大人に気を遣う子だなと、ちょっとかわいそうにも思えるけれど、同じような子供時代を過ごしていた私には、黙ってそれを見守る事が一番だとわかっているから。
「いいね。私も昨日、美散ちゃんのお店のファンになったから、大賛成」
「ほんと?璃乃、肉豆腐、食べたい」
「うわっ。璃乃ちゃん、私と好みが合うよ。肉豆腐、おいしかったもん」
「あのね、ししゃも、もおいしいんだよ。頭からがぶっと食べるとね、大人みたいで格好いいの」
両手を叩いて喜んでいる璃乃ちゃんの様子を、温かく優しい目で見つめている竜也は、そっと璃乃ちゃんの頭を撫でながら
「あまり急いで大人にならないで欲しいんだけどな。璃乃にそのうち
『おじちゃん』なんて呼ばれるんじゃないかってひやひやしてるのに」
小さくため息。
今は『お兄ちゃん』だけど、そのうち『おじちゃん』と呼ばれるのかもしれないって、幸せな悩みだと思うんだけど。
好きな人だというひいき目なしに見ても、女の子からの視線を集めそうな格好いい見た目の竜也が年を重ねて、『おじちゃん』と呼ばれる頃にはきっと。
璃乃ちゃんも素敵な女性に成長して、お父さんをやきもきさせているんだろうな。
今よりも渋みを増した竜也と、艶やかさを得た璃乃ちゃんが並んで、軽い口げんかでもしている風景が簡単に浮かんできて笑ってしまう。
その頃には璃乃ちゃんの病気もよくなって、元気に毎日を過ごしているんだろう。
そう考えると、年を取るのも悪くないって思う。