いきなり王子様

それでも、一旦好きになった人を簡単に諦める事ができるほど若くもない。

たやすい感情と勢いで好きになるには、『若さ』という強さが必要だけど、年を重ねて、自分に対する保身と慎重さに縛られた今となっては。

簡単な気持ちで好きにはなれないし、一旦好きになったら、その好きを気軽に手放す事もできない。

飛び込む事も、逃げ出す事も、かなりの思い切りの良さと力が必要だってわかっている。

「奈々ちゃんは『おばちゃん』になっても絶対かわいいよ」

そんな嬉しい璃乃ちゃんの言葉に

「ああ。今もすごくかわいいもんな」

照れる事も無く、私の事を『かわいい』と言い放つ目の前の愛しい男。

この男には、顔を赤くするだとか恥ずかしいだとかの感情はないんだろうかと、こっちが照れてしまうけれど。

その言葉に心が和らいで、一気に体が浮上していく感覚にとらわれる。

慣れていないけれど、そんな自分が嫌じゃない。

「奈々が『おばちゃん』になっても、俺はずっと奈々を大切にするから」

……本当、腹が立つ。

どこまでもまっすぐに気持ちを向けられて、反論する事も頷く事もできずに呆然と見返すしかできない。

当たり前のように好きだと思いを口にする竜也の本来の姿を目の当たりにしていると、このままずっと一緒にいて。

『おじちゃん』『おばちゃん』と璃乃ちゃんに呼ばれるようになる頃にも寄り添っていられたらなと願い、じんわりと心が温かくなった。


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