いきなり王子様
璃乃ちゃんと竜也との平然とした会話の流れに沿うように、私も気持ちをどうにか落ち着かせた。
二人が美散さんのお店に行こうと家じゅうの戸締りをしながら楽しげに話している様子を見ていると、私一人が竜也の言葉に右往左往する事がばかばかしくも感じてしまったからだけど、今目の前の竜也の姿が、これから何度も見せられる本当の竜也だとしたら、いちいち舞い上がって照れているのもどうかと。
私への想いをダイレクトに伝えてくれる竜也に慣れなければいけないのかなと、照れる思いもありつつ、どこかでそれを幸せに思いながら、自分で自分を落ち着かせた。
「ねえ、お母さんや璃久くんが帰ってくるのを待たなくても大丈夫なの?」
ふと、気になって聞いてみた。
竜也は璃乃ちゃんに上着を着せながら何でもないように。
「平気平気。今日は遅いって言ってたし。
璃久だって、たまには両親独り占めしたいだろ。
普段は璃乃の通院に姉貴が付き添ったりして寂しい思いもしてるだろうから。
な?お母ちゃんたちを待たなくてもいいよな」
「うん。今日は璃久の日だから、大丈夫。
今日のお母ちゃんとお父ちゃんは璃久のお母ちゃんとお父ちゃんだし」
何のためらいも寂しさも感じさせない璃乃ちゃんの言葉はどこか頼もしくて、決して寂しさを我慢してるわけではないと、改めて感じる。
お母さんが出かける時に見せた、璃乃ちゃんの明るい笑顔はつくりものではなくて、本物だったんだなと、再度実感して。
そんな璃乃ちゃんの気持ちは、私が小さな頃に抱えていた想いと同じ。
「お母さんを独り占めするのも、大変だよね?」
からかうように、言葉を投げた。
「うん。璃乃、お母ちゃんと病院に行くの、大変」
「……だね」