いきなり王子様
そんな私と璃乃ちゃんの会話を聞いていた竜也は、怪訝そうに首を傾げて
「璃乃、お母ちゃんと病院に行くのが嫌なのか?」
どこか不安げに璃乃ちゃんを見つめた。
私は、璃乃ちゃんの前に膝をついている竜也の横に立つと
「嫌じゃないんだよ。ちょっと気持ちが疲れてるっていうか、重いっていうか。
決してお母さんが嫌いとかじゃないんだよね?」
優しく璃乃ちゃんの頭を撫でた。
璃乃ちゃんは、私と竜也の顔を交互に見ながら、小さく笑い頷いた。
「お母ちゃんは大好き。でも、時々やだ」
「どうしてだ?何がヤなんだ?」
璃乃ちゃんの言葉の意味がわからない竜也は、気遣うように聞くけれど、どうしてと聞かれてすぐに答えられる単純な理由ではないせいか、璃乃ちゃんはうまく答えられない。
「璃乃は、病院が嫌なのか?……まあ、好きだって言われても複雑だけど」
「璃乃、病院は、好きじゃない。いっぱい検査するし学校も休むし。
でも、ドクターは格好いいから好きだよ」
「格好いいのか……。それは、まあいいとして。
お母さんと病院に行くのが、面倒くさい?」
「うーん」
「お母さん、璃乃の事一生懸命考えて、病院だって色々探してくれただろ?
手術の事も、ドクターとかなり相談してくれてるし、何より璃乃の病気が早くよくなるようにっていつも考えてる」
「……知ってるもん」
「だったら、どうして……?」
竜也は、璃乃ちゃんがお母さんと病院に通う事に対して後ろ向きな事がどうしても信じられないように見える。
そんな竜也にどう答えていいのか、璃乃ちゃんも戸惑っていて、小さな体が更に小さく感じた。
ほんの少し唇をかみしめて、俯きながら。
「お母ちゃんの事、好きだもん……」
そう言葉にするだけで精いっぱい。