いきなり王子様


「お母さんの事が大好きだから、璃乃ちゃんは大変なのよね」

私の言葉に、璃乃ちゃんははっと顔を上げ、竜也は眉を寄せた。

そんな二人に視線を向けながら、私は言葉を続ける。

ほんの少し、私の胸も痛むし、忘れたと思っていた切なさも蘇るけれど、既に大人になって長いせいか、そんな感情を流せる自分にも気づく。

子供の頃の痛みは痛みのまま残っているけれど、その痛みを曖昧にさせる術を得るという事が大人になるという事だと、いつの間にか気づいてもいる。

「お母さんがあまりにも璃乃ちゃんを心配し過ぎて、それにお母さんは自分が悪いんじゃないかって思ってるんだよね」

「うん。お母ちゃんが泣いてると璃乃も泣きたくなる」

「……だよねー」

心細げな璃乃ちゃんににっこりと笑いかけると、少しだけ笑い返してくれる。

それはとてもかわいいけれど、やっぱりぎこちなさもあって切ない。

「奈々?なんで、そう、思うんだ?」

私と璃乃ちゃんとで交わされる言葉の意味がわからないのか、竜也は少し不機嫌そうだ。

「あのね、璃乃ちゃんは、お母さんにあまりにも愛され過ぎて、そして、璃乃ちゃんの病気を自分のせいだと思われて。ちょっと気が重いの」

「姉貴はただ、璃乃を……」

「うん、わかってる。母親だから、自分の子供が病気なのは、自分に責任があるんだと思って責任を感じても仕方がない」

「ああ。……姉貴は璃乃が病院に通うのは、自分のせいだと思い込んでるんだ。
だけど、親なら当然だろ」

「まあね。でもね。子供には重すぎる愛情もあるから。
璃乃ちゃんが、お母さんの事を大好きな分、大変なのよね」

ね?と目で問うと、ほっとしたような璃乃ちゃんの吐息。

「大丈夫だよ。私も璃乃ちゃんと同じだった。
小さな頃からずっと、お母さんに心配されすぎて、大変だって思ってた」

「え?奈々ちゃんも、お鼻が悪かったの?」




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