いきなり王子様
乾いた声が会議室に響き渡って、同時に甲野くんがくすりと笑った。
はあ?何、この落ち着きは。
「あ、悪い。突然の事に驚くお姫さまの顔って意外に子供っぽいなって思ってさ。いつも整った顔でいるから性格も落ち着いた女かと思ってたけど、そうでもないんだな」
「こ、子供っぽい、だ……?」
「ああ、研修の時もそうだったけど、いつもにこにこ作った笑顔で周りに合わせてるし、悪い噂なんて聞かないし、この工場でも『本社のお姫様』って有名だぞ」
どう聞いても私を誉めているわけではない言葉を次々と聞かされて、そのあまりにも自然な口調に、私はただ茫然と見上げるだけ。
作った笑顔、って一体どういう事?
小さく口を開けたまま何も言えずにいる私を見ながら、甲野くんの口からは相変わらず失礼な言葉が連なっていく。
「お姫様なんてあだ名の女にろくな奴はいないって思ってたけど、いい意味でがっかりさせられたな、このお姫様には」
はははっと静かに笑う彼は、自分の言っている事で私がどれほど嫌な思いをしているのかが分かっていないように、そして気づくつもりもないように明るく肩を揺らしている。
「あのねえ、何度も何度も失礼な事を言い続けてるけど、私、甲野くんを怒らせるような何かを言った?
自分では自覚してないけど、もしもそうならはっきりと言ってよ。
どうせ私はがっかりさせるしかできない、見た目だけのお姫様だから」