いきなり王子様
そんな私の歯の事を、かいつまんで竜也に話した。
最初こそ驚いていたけれど、あまりにも私が淡々と話したせいか、徐々に私の状況を受け入れてくれたようだ。
「奈々ちゃん、歯磨きいっぱいしていたもんね」
「でしょう?小さな頃からお母さんに『歯磨きしなさい』ってしょっちゅう言われてたから、今でもご飯を食べたらすぐに磨かなきゃって思ってしまうんだよね」
「璃乃も言われるよ」
「うん、歯磨きは大切だから璃乃ちゃんも頑張って磨こうね」
面倒くさい、って肩を竦める璃乃ちゃんと笑いあいながら、私は、母さんをはじめ、私を心配し過ぎる家族のことを考えていた。
まるで自分のせいで、私の歯が足りないって自分を責める母さんと、何も私にしてあげられないと、落ち込む父さんと兄さんたち。
必要以上に心配され、大切にされてきた。
少しずつ私は『大丈夫だよ』と作り笑いで答える事が上手になって、いつも気持ちのどこかが張りつめていた。
私を心配する家族に、これ以上の重荷を背負わせないように、歯なんて気にしないって顔で平気なふり。
……実際、本当に平気だったんだけど。
私にしてみれば、歯が足りない現実よりも、家族から向けられる目の方がつらかった。
母さんが
『妊娠中、私に何かが足りなかったんだわ。
お兄ちゃんたちの出産が簡単にすんじゃって、三人目の奈々の時も普段通りに、何も考えないままの妊婦生活だったし』
と落ち込む姿を見る方が平気じゃなかった。
『永久歯欠損』のはっきりとした原因はわからないのに、自分ひとりの責任だと落ち込む母さんの様子を目にする度、私自身、とても苦しかったから。
「璃乃ちゃん、お母さんに心配され過ぎて、大変なんだよね」
璃乃ちゃんが今直面している、お母さんからの強い愛情に対する苦しさ。
「お母さんが大好きだから、璃乃ちゃん、どうしていいのかわかんないんだよね」
そう。
強すぎる心配と、愛情は、とても苦しいものだから、今日は璃久くんの為に両親を解放する璃乃ちゃんの気持ち、よくわかる。