いきなり王子様
璃乃ちゃんは、私の目じっとを見つめると、
「璃久、笑ってるかな?お父ちゃんとお母ちゃんと一緒で、楽しいかな」
少しだけ不安な声で、呟いた。
「うん。きっと、楽しいよ。大好きなお父さんとお母さんが、サッカーを頑張ってる璃久くんを見に来てくれるんだから、とても嬉しいし、やる気も出ると思うよ」
「そうだよね。いつもサッカーの練習の時、璃乃が病院に行くから……。
お父ちゃんかお母ちゃんが璃乃についてきてくれるから、璃久のサッカーを観たくても観られないの」
それは全て璃乃ちゃんのせいだと、そう言っているような、切ない声音。
璃久くんと両親が一緒に過ごす時間を、璃乃ちゃんが奪っているんだと、そう感じているのがよくわかる。
だけど、璃乃ちゃんだって、まだ小学生。
不安でいっぱいの気持ちを抱えて、一人で通院するなんて無理なんだから、何も気にせずにお父さんかお母さんに付き添ってもらってもいいのに。
璃久くんへの申し訳なさの方が大きくて、苦しいんだ。
「璃乃ちゃんがお父さんとお母さんを独り占めしているって悩む必要はないんだよ。璃久くんも、璃乃ちゃんのことが大好きだから、我慢だって平気。
だから、悩まないでいいよ」
そっと、璃乃ちゃんの頭を撫でた。
「璃乃、大丈夫なのに。病院だって、一人でも行けるし、璃久がお父ちゃんとお母ちゃんをサッカーに連れて行っても平気。
今日みたいに、璃久が独り占めしても、大丈夫」
「そうだね。璃久くんも、きっと、今日は楽しい一日になったと思うよ。
大好きなお父さんとお母さんが二人で来てくれたら、嬉しいに違いないね。
でもね、璃久くんにとっては璃乃ちゃんだって大切なんだよ。
大好きなおねえちゃんなんだから、サッカーの試合だって応援に来てほしいと思うよ」
「……そうなのかな?璃乃が行ったら、お父ちゃんとお母ちゃんを独り占めできないよ」
心細い声に、私も切なくなる。
そして本当に、優しい。
弟の事、とても大切にしてるんだってよくわかる。
「璃久くんにとっては、璃乃ちゃんも家族だから。
お父さんとお母さんと同じように、璃久くんを応援してあげればいいよ。
そうすれば、璃久くん、試合で大活躍するはず」
「ほんと?」
「ほんと、ほんと」