いきなり王子様
どこかほっとしたような笑顔を私に向けて、璃乃ちゃんは足元を弾ませた。
両手を胸の前で握り合わせて、私の言葉に嬉しさを隠さない。
「璃乃ちゃんがお父さんとお母さんを独り占めするんじゃないし、璃久くんが独り占めするわけでもないんだよ。
二人でお父さんとお母さんを大切にしてあげればいいの。
そして、璃乃ちゃんと璃久くんが仲良く笑っていることが、お父さんとお母さんの幸せなんだよ」
ゆっくりと、璃乃ちゃんにわかってもらえるように話す私に、璃乃ちゃんは小さく頷いた。
「璃乃、璃久が大好き。だから、お父ちゃんとお母ちゃんと一緒にいたいだろうなあって思うから、今日も……」
「うん。璃久くんの為に、お留守番したんだよね」
「……うん」
「優しいね。璃乃ちゃんがそんなに優しく育ってくれて、きっとみんな嬉しいよ。
だから、今度はもっと喜んでもらえるように、璃久くんの試合、璃乃ちゃんも観にいってごらん?
璃乃ちゃんも嬉しいし、璃久くんも嬉しいよ。
もちろん、お父さんとお母さんもね」
「……璃久ね、いつかサッカーの選手になってテレビに出るんだって。
もしも璃乃が病院で寝ていても、テレビで璃久を見られるように、頑張るって言ってた。
夕べ、サッカーのユニフォームを着て、璃乃に見せてくれた時にそう言ってたんだ。
でも、テレビより、ちゃんと見たい。
璃久が走ってるところ、ちゃんと見に行きたい」
それまで全く見せなかった璃乃ちゃんの本心は、小さな胸にずっと閉じ込められていたんだろう。
うるうると溢れる涙となって、彼女の体から溢れてくる。
ずっと璃久くんに遠慮して、申し訳なくて。
本当は家族四人で一緒にいたかったはずなのに、どこかでずれていた想い。
「今度、璃久くんが頑張ってるところに、私も一緒に応援しに行ってもいい?」
璃乃ちゃんの頬に静かに流れる涙を、指先で拭いながら聞いてみると。
優しい瞳を細めて笑い。
「奈々ちゃんと竜也お兄ちゃんが来てくれたら、璃久はもっと頑張るよ」
約束ね。
次の試合は一緒に応援に行こうね、と指切りした。
そして、そんな私と璃乃ちゃんの会話に耳を傾けていた竜也も、当然のように指を絡めてきて、そして。
三人で大きく笑いあった。