いきなり王子様
分け合う体温
* * *
「俺、出番なかったな」
笑い声と一緒に、そう呟いた竜也。
となりの席でおいしそうにお寿司を食べている。
「璃乃が、あんなに色々と悩んでいたって、気づいていたつもりで、実は気づいてなかったよ。
奈々が諭してくれた言葉が、璃乃を素直にさせて、我慢していた気持ちを解放させたんだろうな。……参った」
「解放かあ……、そうかもね。いいタイミングだったっていうのもあると思うけど」
次々と目の前を過ぎるお寿司から視線をそらすことなく、私も呟いて。
大好物のネタを目にしてはどんどん手元に取っていく。
「あ、奈々もサーモンが好きなんだな。俺も絶対はずせない」
「だよねー」
カウンターに並んで、うきうきとした気持ちで食べ、どんどん積み重なるお皿の山。
二人で入った『回転寿司』に舌鼓をうちながらも、話す事はやっぱり璃乃ちゃんの事で。
「璃乃、やっぱり喜んでたな」
「そりゃそうだよ。強がっていても、みんなが早く帰ってきてくれて嬉しいに決まってる」
「だな。いくら俺たちに懐いてくれたとしても、親には敵わないよなあ。
これでも璃乃との距離はかなり近いって思ってたのに、自信失くした」
箸を止めて、一瞬悔しそうに顔をしかめた竜也は、その顔を私にも向けて。
「璃乃が生まれた時から側にいて可愛がってきたのに、奈々の方が璃乃の本音をわかってたし、素直にさせる事だってできた。
本当、俺って出番もなく、見守るしかできなかった」
どう聞いても悔しさと切なさが感じられるその声は、竜也が璃乃ちゃんをずっと可愛がってきた証だろうし、大切でたまらない気持ちそのものだ。
璃乃ちゃんの病気を気にしながら、彼女を見守ってきた『竜也おにいちゃん』はその任務を解かれたかのような脱力感を味わっているに違いない。