いきなり王子様
本気で落ち込んでいる竜也に苦笑しながらも、そんな様子もまた新鮮で、軽く背中を撫でながら。
「私も小さな頃、璃乃ちゃんと同じような気持ちを抱えていたから、だから璃乃ちゃんの懐に入れたのかも」
竜也の顔を覗き込んだ。
「奈々も……?」
はっきりとした疑問形。だよね。
「璃乃ちゃんは鼻の病気だったでしょ?私は、永久歯が一本生えてこないってことが家族にとっては『もうしわけない』だったからね」
「ああ、歯、ね」
思い出したかのように、竜也が頷いた。
これまで、私の永久歯欠損の話をすると、決まって『可哀そう』という視線に悩まされたけれど、何故か竜也は私の言葉を軽く流すように答えた。
「永久歯が足りないなんて、大人になってしまえば虫歯やら、ぶつけて歯を折ったりとか、大して珍しくもないからな」
「あ、うん」
「俺の部署にも一人、高校時代バスケの試合で対戦相手とぶつかって前歯二本折って差し歯になってる奴もいてるし。大人になればよくある話だ」
「そうなんだよね……」
相変わらず竜也の心は璃乃ちゃんに囚われていて、ほんの少し妬けるけれど、竜也の言葉は、大人になった今の私が実感している事だ。
確かに、私の永久歯は足りなくて、乳歯からの生え変わりが頻繁な時期は両親も私も神経質になって悩んだ。
お友達と自分は違うのかなって、幼いなりに真剣に考えたり。
母さんに歯磨きをするようにとうるさく言われる事にも反発していたし。
それでも、そんな悩みは大人になった今では大した事ではなかったと思う。