いきなり王子様


「で、これから俺はどうすればいい?」

「ん?何が?」

茶碗蒸しを注文しようかどうしようか悩んでいる私に、竜也の声。

横を向くと、カウンターに肘をつき、顔を手に乗せながら私を見ていた。

「明日も休みだろ?このまま奈々を部屋まで送るけど、それから?」

「……それから」

「そう。奈々の部屋の前まで行って、俺はそのまま帰る?
それとも、一晩一緒に過ごす?」

「な、何、突然……」

どこか艶めいた視線と声だけでも私には刺激的で、ぐぐっと気持ちを掴まれるのに、その言葉の意味に気づいた途端、竜也から視線をそらせくなった。

「突然……って、今更だろ。奈々にしてみれば、昨日からの展開全てが突然で予想外の事だろ。
俺にとっては長すぎる想いに決着をつける、ようやくの展開だけどな」

「それがわかってるなら……」

もう少し展開の速度を緩めて欲しい。

押し切られるように竜也の気持ちを注がれて、逃げる事も出来ないうちに私の気持ちは竜也に向かっていく。

昨日、工場に出張に行って以来、その慌ただしさと地に足がついていないような感覚全て、突然の出来事だから。

「竜也が今日、どうすればいいかなんて、考える余裕なんてないよ」

俯いて、そう呟くだけで精一杯だ。

確かに竜也への愛情を感じるし、これほど速い気持ちの変化を信じられないとも思うけれど。

それでもやっぱり竜也を好きになってしまった自分を認めないわけにはいかない。

既に大人となって長い私だから、今晩竜也と一緒に過ごすという意味はわかっている。

……そんな夜、初めてではないし。

恋人と体温を分け合う夜を過ごす幸せだって知っている。


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