いきなり王子様
愛する人とのそんな時間だけが私に与えてくれる満ち足りた感情を、竜也からも与えられたいと、願う自分もいるけれど。
「竜也との関係が、まだ信じられないから、どうしていいのかわからない」
「俺だって信じられない」
「……信じられないって、竜也が強引に私の気持ちを揺らしたくせに」
「強引だし、勝手だし?」
私の言葉を予想していたように、小さく笑って答える竜也は、それでも私の手をそっと握りしめて言葉を続けた。
この余裕が、私の中のいらだちを助長するって気付いているのかいないのか。
仕事だけじゃない、私に対しても折れないその意思に、気圧されそうになる。
流されてはいけないけれど、流されてもいいような、でも何かがひっかかる。
「俺が長い間、奈々を意識していたってのはわかってるんだろ?
どうしても俺の中から切り離せなくて、奈々の存在を忘れられなくて。
こうして奈々が隣で笑ってる今以上の事を求めても、罪にはならない」
「つ、罪にはならないけど、私の気持ちは追いつかないし、竜也を全て受け入れられるかと言えば、どう答えていいのかも謎」
力強く話す竜也に反して、私はか細い声でようやく。
「それならちょうどいいだろ」
「え?ちょうどいい?」
どうして?
「奈々がとりあえず俺を意識して、少なからず好意も持っているのなら、俺はそれに便乗して、押し切るから」
「押し切るって、それっておかしい。私、簡単に男の人を受け入れられるタイプじゃないから。
……それに、大切な人を受け入れて、体温を分け合う幸せを知っているから、簡単になんてできないよ」