いきなり王子様
竜也の言葉を待っていても、やっぱり焦らしているのか、にやりと笑っただけで、私が求める答えどころか何も言ってくれない。
「竜也、いい加減、教えてよ」
「んー。まあ、奈々が不安に感じる事は何もないんだけど、そんなに気になるなら。でも、ここ出てからにしよう。
それほど楽しい話じゃないんだ、俺と、美散の関係は」
ははっと笑いながら、もう少し食べるか、と箸を手にして。
竜也は再び回転レーンへと視線を向けた。
変わらず飄々とした表情と、私への温かい声を与えてくれるけれど、それでも纏っている空気の温度が変わった気がする。
明るい店内で、寄り添いあうカウンター。
そこで感じていた温かな空気が、ほんの少し、澄んだかのような。
「竜也?」
「明るい話じゃないけど、奈々には影響のない話だから、もうちょっと待ってくれ。寿司食ってからでも遅くない」
「ん……」
それまで私の手を包んでいた竜也の手のぬくもりが、そっと離れた。
寂しい、と、思わずその手を追いかけるように私の手は微かに動いた。
はっと竜也を見ると。
中途半端なままに置かれた私の手に気づいて。
そして、くすりと喉を震わせると。
そのまま私の耳元に唇を寄せ、思わせぶりに言葉を落とした。
「安心しろ。手だけじゃなくて、奈々の体全部、温めてやるから」
本気なのか冗談なのかわからないけれど、それでも私の心は確かにそれを望んでいると気づいた。
竜也の体温全てを私の体で感じたい。
それが意味するものをわからない振りなんてしない、もう、そんなことをするほど子供でもない。
だから、
「早く食べて、私の部屋に行こう」
私からそう言って、竜也の腕にそっと手を置いた。