いきなり王子様
* * *
「ここ、かなりセキュリティに配慮されてるんだな」
「あ、うん。それが私の一人暮らしの条件だから」
「へえ。俗にいう、箱入り娘ってこと?」
「……かな。箱入りっていうほどでもないけど、大学時代に家を出ることが決まった時に、『奈々の安全は当然だけど、父さんと母さんの精神的な安心のためには防犯第一だ』って言われて。
ずっと両親が防犯設備で満足できる部屋にしか住んでないの」
私は、電気ポットでお湯を沸かしながら、リビングのソファに腰かけている竜也に視線を向けた。
長い脚を投げ出して、背もたれに体を預けながらテレビのリモコンを操作している竜也は、目当ての番組を探したようで小さく笑い声をあげた。
そして、お笑い番組を観ながら肩を震わせている。
初めて私の部屋に来て、それも22時という恋人達にとっては特別な時間。
何の緊張感もためらいもなく、寛いでいる横顔を見ていると、これまで竜也と一緒にいなかった事実が信じられないくらいだ。
まるで何年も付き合ってきて、この部屋の合鍵も持っているみたいに思えるから不思議。
この部屋の空気感に馴染んでいる竜也に、ほっとするような、少しいらだつような。
さっきまで一緒にお寿司を食べて、この部屋に来たいとまっすぐな目で請われて。
私の気持ちに大きな波を立てたくせに、今見せている落ち着いた態度って、一体どういう事だろうかと、思わず首をかしげてしまう。
「俺、このコンビのライブに何度か行ったんだよ。
まだ売れてない頃から目をつけていたから、こうしてテレビで活躍しているのを見ると、妙に嬉しい」
相変わらず視線はテレビに向けたまま、嬉しそうな声。
「へえ。この間、お笑いの賞もとってたね。私も結構好きだよ」
「そっか。最近はなかなか行ってないけど、今度一緒に劇場にでも行こうか。
生で見ると、やっぱり違うしな」
「うん……」